支援者マインドと、当事者マインドの使い分け(「共感と同感」編)

傾聴などを通じた心理的支援の現場では、サポーターの心と当事者の気持ちをうまく理解し、言葉遣いや態度を調整することが重要です。

ただし、どんなに共感しようとしても、自然と同感の言葉が出てしまうこともあるため、使い分けを考える必要があります。

支援者マインドと、当事者マインド、どちらも必要と私は考えています。

後者は、ピア・カウンセリング的な要素としても重要です。

「ピア(peer)」とは仲間で立場も近いですが、同一ではありません。 同じにはなれない。

たとえ類似しているところがあっても別人であり、兄弟姉妹であっても別々の人生を歩んできた者同士です。

そのため関係性のために「分けて」考え、使い分ける意識が大切と思います。

例えば、傾聴をしていると、話し手さんを知りたい気持ちの奥に、当事者マインド(同感して、代替的に自分を満たしたい承認欲)が潜んでいるときもあります。

 

  • 支援者マインド(共感)

    相手の気持ちに寄り添いながらも、理性的・客観的な視点を持ち、相手の言葉に耳を傾けます。
    ここでは相手の感情を深く感じるプロセスが優先されつつ、感情的に巻き込まれないようにします。

  • 当事者マインド(同感)
    相手の感情に深く共鳴し、その気持ちを共に感じることで、相手と強い繋がりを感じます。
    このアプローチでは、相手の気持ちに共鳴することが主軸となり、感情的に支え合う関係を築きます。
    ですが、同感軸だけでは諸刃の剣でもあり、以下のような問題が生じてしまう懸念が伴います。

    1. 感情的な過負荷
      同感を深めたり強めてしまうあまり、支援者自身が感情的に過剰に巻き込まれてしまう場合があります。
      支援者自身も相手と同じ感情に圧倒されてしまい、冷静な判断を失ったり、感情的に疲れ果ててしまうことがあるため、長期的には支援者自身に負担がかかってしまいます。

    2. 問題解決への影響
      同感を重視、または頼りすぎると、相手の感情に共鳴しすぎて問題の本質や方向性を見失って視野狭窄に陥ってしまう場合があります。
      感情を共有すること自体は大切ですが、その後にどのように相手が解放されたり、自らの方向性を見出していくための寄り添いができるかを考えることも重要です。
      単に感情を共鳴するだけでは、傾聴での寄り添いや問題解決には繋がらない場合があります。
      そのため傾聴では「同感」より「共感」を軸としていきます。

    3. 依存関係の形成
      同感だけの関係が続くと、相手が感情的なサポートを求めるあまり、支援者に依存するようになってしまう場合があります。
      相手が自己回復力や解決力を発揮できなくなり、感情的なサポートに頼りすぎてしまう可能性があるため、注意が必要です。

    4. 境界線の曖昧さ
      同感に偏ることで、支援者と当事者の境界線が曖昧になりやすくなります。
      感情的に近づきすぎることで、支援者が自分の役割を見失い、クライアントと同じ立場になりすぎてしまうことがあります。
      これでは支援者としての客観性や中立性を保つことが難しくなり、双方にとって健康的な関係を築くことができなくなります。
      適切な境界を保ちながら感情的なサポートを行うことが、長期的に有効な支援に繋がります。

使い分けのポイント

 

  1. 感情の深さと距離感を保つ

    支援者マインドでは、相手の感情を理解し寄り添うことが重要ですが、自分自身がその感情に引き込まれすぎないようにする在り方が求められます。
    冷静に俯瞰的な視点を保つことで、相手の気持ちをしっかり聴き、支援を行うことが可能です。
    一方で、当事者マインドでは相手の感情に強く共鳴し、共感を深めることで、相手がより安心感を得られるようにします。
    感情的な共有が強ければ強いほど、相手は理解されていると感じることができるため、適切なタイミングで使い分けることが重要です。

  2. 目的に応じて選択する

    支援者マインドが必要な場面では、問題解決に向けて冷静に状況を判断し、相手の感情に影響されずにサポートを行うことが求められます。
    たとえば、クライアントが悩んでいる問題に対して、冷静にリフレクションを行ったり、具体的な行動計画を立てる場合です。
    逆に、当事者マインドを用いるときは、相手の感情が非常に強く、心の支えが必要な時に役立ちます。
    感情的なサポートを提供することで、クライアントが自分を理解されていると感じて信頼関係が深まります。

  3. 自己管理をしっかりと行う

    当事者マインドに強く深く入るほどに、支援者自身も感情的な影響を受けやすくなりますね。
    これは、支援者が感情的に疲れてしまったり、客観的な視点を失ったりするリスクがあるのではないでしょうか?
    そのため、感情に巻き込まれすぎないように自己管理をしっかりと行い、支援者マインドに切り替えるスキルも必要と考えられます。
    必要なときに冷静さを取り戻し、感情的な共鳴から距離を取り、共感軸に戻ることが効果的な支援に繋がります。

  4. 相手に合わせて使い分ける

    クライアントや相手が求めるものが、感情的な共鳴である場合もあれば、問題解決に向けた冷静な共感を求めている場合もあります。
    相手の気持ちに注意を払い、どちらのアプローチが適切かを柔軟に判断することが重要です。
    例えば、相手が深く落ち込んでいるときには、当事者マインドを使って同質効果を示し、信頼感を築くのも有効なときがあります。
    しかし、俯瞰的に深く入っていく場合には主観的要素の共有では足りなくなり、支援者マインドを使って理性的である共感的な視点を持つ姿勢が求められます。

  5. 支援者としての役割を忘れない

    最も重要なのは、支援者としての役割を忘れずに持ち続けることです。
    感情的に共鳴しすぎてしまうことで、支援者の立場を忘れ、クライアントと同じ立場に立ってしまうことがあります。
    これではクライアントに充分なサポートができなくなってしまう可能性があります。
    したがって、常に自分が支援者であることを意識し、相手の感情に対して適切な距離感を保ちながらも共感し、深く理解しようとする姿勢が大切です。

 

このように、「支援者マインド」と「当事者マインド」の使い分けは、相手の状態や求めるものに応じて柔軟に調整することが求められます。

適切なタイミングでそれぞれを使い分けて、より効果的な支援の一助としていただきましたら幸いです。

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